wonder PHOTO POJECT

 

wonder「ボクの左側」

it was "dramatic every day".
 
  

scene#09 声の記録

しばらくして雪遊びに飽きたのか、彼女はボクの座るベンチへ向かってきた。いつものようにボクの左側に座るかと思って右側に少しよけた、けれど、彼女はそのまま後ろへ回り込んでボクの背中に顔を押し付け、ぎゅっと強く抱きしめた。
 
「どうしたの?」
 
と、聞いても、彼女は黙ったまま。そして、さらにぎゅっと強く抱きしめた。
 
「ねえ・・・」
 
と、もう一度問いかけると、ボクの声を遮るように
 
「いいから・・・」
 
と、彼女はボクの背中に強く耳を当てた。そして
 
「・・・そのまま何かお話をして。」
 
と、ボソっと小さな声で言った。
 
彼女の意図することがわからなかったけれど、彼女がそうしていたいのなら、と、ボクは色々な話をした。今している仕事のことや、読みかけの本のこと、一昨日食べたシナモンロールが美味しかったこと。
 
「声っていつまで憶えていることができると思う?」
 
「んー どうかな・・・分からないな。」
 
「でしょ? 私もそれが分からないから、こうしているの。」
 
彼女は、背中から耳を離して、寝返りのように顔の向きを変え、今度は寒さで赤くなった頬をボクの背中に押し付けた。
 
「こうやって耳だけじゃなくて、からだ全体であなたの声を感じて記録するの。」
 
「そっか。」
 
ボクが話すネタが思いつかなくなった頃、雪は止んで、厚い雲は流れて、青い空が少しだけ顔を出していた。
 
「じゃあ、次は君がお話してよ。君の声を背中で記憶するから。」
 
「うんっ。」
 
と、彼女は「あのね、んとね・・・」と話し始めた。

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