wonder PHOTO POJECT

 

wonder「ボクの左側」

it was "dramatic every day".
 
  

scene#06 みらいのはなし

彼女は未来のことを話すのを嫌う。
はっきりと言葉にはしないけれど、別の話題を次々と切り替えて、はぐらかそうとする。
 
去年の秋もそう。オレンジ色のやさしい陽射しに包み込まれながら、いちょう並木を二人で歩いていた時のこと。やがて、この彩やかな色も無くなって冷たい冬がやってくる。その瞬間、このシアワセな時間が終わるんじゃないか。と、想像したら、急に不安な気持ちでいっぱいになって・・・
 
「来年の秋も、また、二人でここを歩きたいね。」
 
と、ボクが確かめるように言うと。彼女は
 
「ねえ、スワンボートの王子様の話って知っている?」
 
と、突然、公園にある池のスワンボートの話をし始めた。あの数十台あるスワンボートは皆んな女の子で、ひとつだけ男の子のスワンボートがあるんだとか。

「ひとつだけ、キリっとした眉毛がある子がいるの、その子が王子様なんだって。」
 
彼女は得意気な顔で話をつづける。たくさんいる女の子の中から、お姫様候補を探しているんだ、とか。あの中に意地悪なお嬢様がいる、とか。少し汚れているけれどとても可愛い子がいる、とか・・・つまりは、あの童話と重ね合わせている。そのうちに、「あのね」「んとね」が多くなってきて、別の童話の登場人物が出てきたりする。あとで「もう一度このお話をして。」と、言っても出来ないだろう。あきらかに創作しながら話している。
 
「今から探しに行ってみない?」
 
そんな彼女の提案に「じゃあ・・・行こうか。」と乗ると、
 
「うんっ!」
 
と、いつものあのクシャっとした笑顔と大きな声で返事をして、ボクの上着の袖を引っ張って走り始めた。
 
でも結局、あの時、スワンボートの王子様を見つけることは出来なかった。

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